連載小説集

同居の清月

  • 青ざめた夜は明けない

     朝からなんなくことりの顔色が悪いのは気がついていたが、いつも通りの働き方につい見逃してしまった。授業終わり、あまりに息切れすることりに触れて、見逃していた自分に後悔をする。「ことり、おいで」 青白い顔色は冷や汗がひどく、歩くのもままならな…

  • よく似た傷痕(サイト限定公開)

     縫うほどたいした傷でもないのに病院に駆け込んで、その挙句に長話をして帰る患者がいる。今日はそんな奴が続いていて、正直閉口していた。でも俺は医者だから、どんな患者でも平等に扱うつもりだ。世間話に相槌打って、一日が終わり夕方、看護師もいない…

  • 距離と心模様

    「久しぶりの同窓会でね、もう十年にもなる」 そう言って清月先生は遠く懐かしい顔をした。僕は笑顔で聞いているつもり、でも、本当にうまく笑えていたかはわからない。「明後日帰るよ、デッサン教室は休みにしたから」「はい」「しかし、泊まりは久しぶりだ…

  • 横たわる人形

     清月先生のデッサン教室は小学生から年配の人までいろんな人が通っている。画家を目指している人から趣味でじっくりと楽しみたい人まで。その中で僕は異質だった。「ことり先生!」「えっ、こ、ことりは先生じゃありませんよ?」 生徒の一人、小学生の女の…

  • 高熱を下げる水

     早朝、食堂に行けばもうことりが目を覚まして椅子に腰かけている。朝食でも食べたのかと思えば目の前に置いてあるのはコップの中の一杯の水だけで、台所は使った様子もない。うつむき加減のその顔は青ざめて、白く、闇に透けたろうそくのようでもあった。ふ…

  • 拾われたことり

     晴方(はるかた)ことり。 僕は、絵を描くのが別に好きなわけではないのに、デッサン教室のアシスタントをして暮らしている。それは先生の言うことを聞いて仕事をしていれば、とりあえず路頭に迷わないからと言う少し卑怯な理由だった。本当は芸術家なんて…

恋詩の終わりに

  • 恋詩の終わりに01

     古びた広告のチラシ一枚が夜風に舞う。それを見つけた一人の男は拾い汚れを払って、チラシを折り畳み懐にしまった。痩せて綺麗な顔した青年が、化粧品の宣伝をしている広告だった。男はそのまま何も言わず、疲れた背中を丸めて夜の住宅街に消えて行く……。…

孤独の群(for living)※旧題「生きるしかばね恋をする」

  • 孤独の群-06帰りたい場所

     リャムがふと目を開けたら、誰かがじっと見つめている。カリン? いや、弟は寮の玄関で見送って、その後……。「ミ、ヤツカ……?」「おう、おはよ」「ここ、どこ……」「何、覚えてないわけ? ビョーインだよ、病院」「びょ……?」「全くさあ、何だよお…

  • 孤独の群-05ヒトナミ展覧会

    「なあ、リャム。今度の休み遊びに行こうぜ」「どこに?」「お前が行きたいところでいいよ、その辺は任せる」「誘った割に丸投げだな、ああでも一つ興味深い催しがあるんだ」 ミヤツカにそう言ってリャムは何かに想いを寄せるような、少しだけいつもよりうっ…

  • 孤独の群-04アンカー

    「僕は嫌だな」 あからさまな嫌悪感。たかが学校行事に対してそんな感情的な言葉をリャムから聞くとは思わなかった。国立創造研究学園最高学部一年、クラス別対抗合同陸上競技大会。いわゆる運動会は都市の暑さを考慮して、学年ごとに例年夏の雨季の前に開か…

  • 孤独の群-03大人にはならない

    「まあ! 今でも背が伸び続けているのねえ。もう二十歳も過ぎているんでしょう?」「はあ、飯食えば食うほどどこかしらでかくなるんすよ」 翌週末に健康診断があった。もうここ十年くらい風邪すらひかないミヤツカは看護師に逆にその丈夫さに驚かれながら基…

  • 孤独の群-02友人の死

     国立創造研究学園最高学部、本年度初めての授業『基礎ヒトナミ概論』の時間にその男達はやって来た。よりにもよって最前列に座っているミヤツカに、赤い髪の男は馬鹿にするように黙って睨み目を逸らした。「グレッダ・リーン、こちらにおられるムトー学園最…

  • 孤独の群-01アンドロイド

     この国において個人の欲望のままに『アンドロイド・ヒトナミ』を造るのは倫理違反である。彼らは自ら生殖能力を持たないため、製造は一部の研究者のみに託されていた、それが国立ヒトナミ研究所。 一つ忘れてはならないことは、ヒトナミは姿形は似ていても…