体調不良

薫風水魚

「はじめまして、薫。僕は眞田理瀬(さなだりせ)、君のお母さんの弟だよ。これからよろしく、楽しく暮らそうね」 眞田薫(さなだかおる)は中学三年生、実母の失踪によりこの街にやって来たのは春の終わり。いわゆる叔父にあたる理瀬はまだ二十三歳で親子ほ…

兄さんは悪くない

 今から思いだしてみれば、母の兄に対する悪意を含んだ感情は度を超していた。僕に対しては何気なくやり過ごすのに、兄には執拗に責め立てる。例えばシャツのボタンをなくしただけで、彼女は躊躇なく兄の頬を叩いた。そんな母が亡くなって、今年で五年がたつ…

蝉が去った

 大音量の蝉の鳴き声で目を覚ます。しかしまだ季節は夏にはまだ遠く、やがてそれが昌己自身の病んだ耳鳴りだと言うことに気がついた。「おい」 寝転がっていた天井、じっと見下ろしている野瀬の顔。しかし頭を動かすと眩暈がするから昌己は黙って目を閉じて…

純情の青

「ね、ね、櫻庭さん、宿題見せてください!」「また忘れちゃったの?」「家で考えてもわからなかったのであきらめたんです」「そっかぁ……じゃ、このお弁当食べてくれたら」 有馬直生(ありまなお)は物覚えが悪い。今日の英語の課題だって授業を受けていた…